メリークリスマス




部活が終了し、着替えていた真田に幸村が声をかけた。

部室には幸村と真田、そして仁王の三人しかいない。

少し前までは柳がいたが、今は席をはずしていた。

「ねぇ、前からきになったんだけど、柳とはもうエッチしたの?」

幸村のストレートな言葉に真田は言葉に詰まった。というか仰天した。

その真田の反応に仁王が笑みをこぼしている。

「ゆ、、、幸村っ!」

「真田ってわかりやすいよね。でも、好きなら触れたいって思うでしょ?」

幸村はクスクスと笑う。仁王は幸村の隣から身を乗り出す。

「ウチの皇帝は恋愛に関してはまだまだお子様じゃからのう」

「お前は手が早いだけだ。俺は・・・大事にしたい。それだけだ」

真田はそうつぶやいた。

「でもさ、たまには触れたりしたり、行動で示すことも大事だと思うよ。

柳だってきっとそうして欲しいと思ってるんじゃない?」

幸村はそういった。

その隣で仁王はまだ笑みを浮かべ、楽しんでいた。

「しかし・・・」

真田は口を濁していた。本当は真田も好きな人に触れてみたい。

幸村や仁王がいうようにキスもしたいと思う。

それでも、真田はそれすらも恥ずかしくて出来ない。

それが原因で嫌われたくはないと思う。

「真田、がんばりなよ。いくら柳でもそんなに待ってくれないよ」

「今日はクリスマスじゃけん、しっかりやりんしゃい」

二人は着替え終わるとそろって部室を出て行った。

真田は部室で一人、二人が言った言葉を思い返していた。



しばらくして、柳が部室に戻ってきた。

「すまなかったな、弦一郎。遅くなってしまった。幸村たちは帰ったのか?」

「あぁ、もう俺たちしか残っていない」

真田はまともに柳の顔を見ることができなかった。

それだけで体が反応してしまいそうだった。

――触れてみたい――――

真田の心はその欲求で満たされていた。

「弦一郎、どうかしたのか?」

柳は真田の様子がおかしいのに気がついた。

やけにソワソワしている。自分がいない間に何かあったのだろうか。

柳はそうは思ったが、気のせいかも知れないとも思った。

「いや、何でもない・・・」

そうはいったが、もうすでに冷めそうにない高揚感と欲求は真田の体に広がっていく。

「蓮二・・・」

真田は静かに柳の名を呼ぶ。その声に柳は顔を向けた。

真田の視線は柳の唇に向かって射抜いていた。

名を呼んだだけでも真田の体は緊張し、強張り、その先の言葉が口から出てはこない。

「弦一郎、本当に何でもないのか?」

明らかにいつもの真田ではなかった。表情が少し硬い。

「蓮二・・・その・・・俺は・・・」


――いくら柳でもそんなに待ってくれないよ――


幸村の言葉がよみがえる。

柳はどう思っているのだろう。恋人のように付き合ってから何もないのだ。

普段から友人としての付き合いが延長したような付き合い方。

互いに気持ちを伝えたのにも関らず、一緒にいるだけ。

恋人のような付き合いはいまだに何もなかった。

「蓮二・・・お前に・・・」


――触れてもいいか――――


長い時間を要して言えた言葉。

しかも、語尾が見事に小さく聞き取れず、その短い言葉だけでも真田は顔を赤くしていた。

柳は真田の顔をじっと見つめていた。

返答をまつ真田は永遠とも思える長い時間に感じた。

クスッ

柳が笑みを浮かべた。

そして、柳からの優しいキス。

やわらかく、甘い。触れるだけのもの。

真田は目を大きく見開き、瞬時の出来事を理解できずにいた。

「相変わらずだな、弦一郎は。このまま待ちすぎてお爺さんになるところだったぞ」

穏やかな微笑みを柳は浮かべて言った。

「蓮二・・・」

柳は真田の手を取り、その手のひらを自分の胸に当てた。

「弦一郎、俺はお前が好きだ。俺もお前に触れていたいと思うし、こうしてお前の体温も感じていたい。だから・・・・」


――触れたくなったら遠慮なくいえばいいさ――――


「蓮二・・・俺もお前が好きだ。ずっと一緒にお前を感じていたい」

真田はギュッと柳を抱きしめた。

やっと恋人のように互いの体温を、温もりを感じることができた。

「弦一郎、メリークリスマス」

「メリークリスマス、蓮二」

しばらく、二人は誰もいない部室で抱きしめあっていた。

外はパラパラと白い雪が降っていたのを二人は知らなかった。



おわり